記憶のポイント〜忘却曲線〜
忘却曲線という言葉を聞いたことがあるだろうか。
簡単にいえば人の忘れていくペースをグラフにしたものです。
どんな実験結果でそのグラフが導かれたかということからまずこの章をはじめ、
これをいかに受験に応用するかという話をします。
ドイツの心理学者エビングハウスの実験
エビングハウスという心理学者が無意味なアルファベットの羅列を覚えて、
その後、時間とともにどれだけ覚えているか、どれだけ忘れているかテストをしたらしい。
すると….
20分後には42%を忘却し、58%を覚えていた。
1時間後には56%を忘却し、44%を覚えていた。
1日後には74%を忘却し、26%を覚えていた。
1週間後(7日間後)には77%を忘却し、23%を覚えていた。
1ヶ月後(30日間後)には79%を忘却し、21%を覚えていた。
という結果が出たらしい。
これはなかなかすごいことだと思いませんか?
無意味な記憶はこんなにすごいスピードで忘れていくんです。
英単語の暗記というのは基本的に丸暗記ですから、これと同じぐらいのペースで忘れていきます。
英単語を暗記しても、100個覚えても1日たてば26個しか覚えていないということです。
しかしいくら早く忘れるといっても、英単語を覚えなければ受験は乗り切ることは出来ませんし、
合格者はみんな覚えていたわけです。
では、これだけ忘れてしまう人間にとっての効果的な復習方法を考えてみましょう。
どちらの復習が効果的か?
また、a君とb君の話で効果的な復習の方法を考えてみましょう。
英単語を100個暗記したa君とb君が違った方法で復習をします。
a君は英単語を100個覚えた翌日に復習をします。
b君は英単語を100個覚えた1ヵ月後に復習します。
a君もb君も記憶力は同じだとして、復習をした翌日に英単語のテストをした場合、どちらが点数がいいでしょうか?
つまり、a君は100個覚えた2日後にテスト、b君は1ヵ月と1日後にテストをしたということです。
どちらが点数がいいでしょうか?
正解はa君です。
おそらく、a君のテストの結果は約70点、b君の結果は約30点だと思います。
「覚えてから間もない間にテストをしたからa君の方が点数がいいに決まってる」
と思うかもしれません。
しかし、私が注目してほしいのはa君の方が点数が良かったということよりも、b君の方の点数なのです。
b君は1回復習したにもかかわらず、30点程度しか取れない理由は何故でしょうか?
忘却曲線によれば、1回目に暗記した翌日にテストをしても26点は取れるはず。
もう1回復習をしたにもかかわらず点数は伸びていません。
同じ復習の回数のa君には40点も差がつけられています。
つまり、b君は復習をした意味があまりなかったということになります。さて、その原因はなんなのでしょうか?
a君もb君も1回目の復習のとき忘れている英単語の数は同じぐらいのはずです。
忘却曲線によれば、1日後にテストをしても26点、1ヵ月後テストをしても21点のはずです。
忘れた数は同じようなものです。
それでも点数の開きが次のテストから現れる理由はなんでしょうか?
それは同じ「忘れている」でも、種類が違うからです。
再認可能忘却と完全忘却
「忘れている」とは言っても、忘れ方には色々あります。
b君が復習したとき、1回英単語を覚えてから1ヶ月たっています。
そのため、英単語の意味を見ると「こんな単語あったっけ?」「見たことないような・・・」というものがたくさんあったと思います。
しかし、a君は覚えてから日の浅いうちに復習をしたので、
英単語の意味を忘れていたとしても「あ、この意味だったな!」「この単語あったあった!」と思えると思います。
この差が大きな違いを生むのです。
「この単語あったあった!」っていうふうに、答を見て思う忘れ具合を「再認可能忘却」といいます。
「こんな単語あったっけ・・・」っていうふうに、答を見て思う忘れ具合を「完全忘却」といいます。
再認可能忘却というのは、復習をした意味があります。
なぜなら「しまった!この意味だった!」などと思えるため印象に残りやすいのです。
しかし、完全忘却では復習の意味は余りありません。なぜなら「こんな単語あったっけ?」と思えるということは、その英単語と初対面に戻ってしまったということです。
つまり、1回もその英単語を勉強していないのと同じことになってしまいます。
それでは1回目の勉強の意味がなくなってしまうわけです。
完全忘却させてはいけない。
a君は完全忘却する前に復習をしたために点数が上がったのです。
b君はもう既に完全忘却してしまっていたので、英単語とは初対面に戻ってしまい、1回目の勉強の意味がなくなり、点数が上がらなかったのです。
ここからわかることは「1度覚えたものは絶対に完全忘却させてはいけない」ということ。
つまり逆を言えば「全ての事項を再認可能レベルでとどめておく」ということが大切になります。
完全忘却させない復習のタイミングとは?
では、完全忘却させない復習のタイミングとはどういうタイミングなのでしょうか?
これは教科や分野によって異なります。
数学など、覚えることに論理的な意味があるものに関しては忘れにくく、
英単語のような丸暗記を強いられるものは忘れやすくこまめに復習しなければいけません。
そのためいろいろありますが、標準的な復習のタイミングから説明します。
私たちが生徒に参考書をやらせながらいたった数値、
いろいろな脳科学の本を読んで行き着いた復習のタイミングは、勉強した日を1日とすると、
「4日・10日・22日」
というものでした。この復習のタイミングで3回やれば基本的には普通、身につきます。
そのため武田塾では一つの参考書につき合計4周させるということになります。
完全忘却をさせないことと100%を維持するという二つのポイント
完全忘却させないことが大事だと書きました。
しかし、完全忘却を防ぐことは目的ではありません。
完全忘却する前に復習することによって、定着率を高めることが最も大切なことです。
「再構築」のところでも書きましたが、参考書を100%の状態を何度も復習することによって維持するのです。
何度も復習することはやたらとするものではなく、タイミングを計ってやるもの。
そのタイミングを忘却曲線が教えてくれるのです。
そしてその適切な復習によって、定着率が高まり、参考書が全問正解の状態が維持される、
そうすることで完璧な一冊が完成するのです。
再構築は必ず全問正解で。
少し忘却曲線の話からはずれますが、大切な話なので聞いてください。
復習を適切なタイミングでするのは大切ですが、タイミングがあっていればいいというわけではありません。
あっていても、「×をつける方法」をして、全問正解に毎回しなければ意味がありません。
「ちゃんと日にちどおりに復習した」と言っても、間違えた英単語の意味を確認しただけで先に進んでは意味がありません。
そこでもう1度「全問正解」にし、
一回は正解できる状態にならないと忘却曲線のグラフは100%のところまで引き上げられなかったことになり、
全く意味がなくなってしまいます。
100%の状態を維持するということは、1回全問正解にすることを繰り返すことによってなります。
その日に100%になっていないのに、その日以降に勝手に100%になることはないのです。
理解と再構築を繰り返すことによって記憶を図る。
難しいかもしれませんが、「記憶」というのが最終的な目的地なのです。
記憶が完成すれば、完璧な一冊が出来上がります。
完璧な一冊があるということは偏差値が上がるということです。
だから記憶にたどり着くことが最も重要なのです。では、振り返って考えてみましょう。
まずは問題を解き解説を読みます。
英単語の意味を確認します。
この時点は「理解」の段階なのです。
問題の解説を読むこと、単語の意味を見ることは「理解」であり、勉強の第一歩です。
そして次に「理解」したものを自分で全て組み立てるようにします。
×をつけながら全問正解にするのです。これで「再構築」が完了しました。
これで二段階目のクリアです。しかしこれだけでは忘れてしまいます。
一回全て解けるようにしたからと言って、もう二度と忘れないということはないからです。
だから忘却曲線を利用し、完全に忘れる前にグラフを100%の状態に持っていくのです。
その方法は間違えた問題を「理解」しなおし、「再構築」するのです。
忘れていた問題はもう一回解説を見ることになります。
忘れていた英単語の意味はもう一度確認し「理解」しなおすことになります。
しかし理解しただけでは問題は解けるようにならないため、「再構築」をし、全問正解にするのです。
この「理解」と「再構築」のセットが復習の1セットになります
これをだいたいあと3回復習すると忘却曲線のグラフ落ち具合が弱まり、
「完璧な一冊」が完成し、「記憶」の完了となるわけです。
そうすれば次の参考書に進むなり、過去問に入るなりをすれば言いというわけです。
(もちろん、うまくやれば1周終われば並行して2冊目に入ることは問題ありませんが。)
忘却曲線のまとめ
忘却曲線を利用し、常に100%の状態をキープすることを意識しましょう。
完全忘却させてはせっかく勉強した意味もありません。再認可能忘却のうちにこまめに復習しましょう。