助動詞「まし」は「もし私が鳥ならば、空を飛ぶのがさぞ楽しいだろうに」といったように、事実ではないことを仮に想像する「反実仮想」の意味を持つ助動詞です。
助動詞「まし」には、この「反実仮想」以外にも意味があるため、古文のテストによく出る文法の1つですが、「どうやって訳せばいいのかな?
」と判断に迷うことがありますよね?
この記事では、ここさえおさえておけばテスト対策はばっちり!というポイントをピックアップして解説していきます。
最後には演習問題もあるので、是非チャレンジしてみてください!
高校古文のテストに良く出る!「まし」の活用と接続
ポイントの1つ目は「まし」の活用と接続です。
活用と接続は古文の文法問題にも頻出するポイントなので、しっかりと覚えていきましょう。
「まし」の活用
ましの活用形は「特殊型」です。
ちょっと大変ですが、まずはこの活用をそのまま覚えてしまいましょう。
基本形 | 未然形 | 連用形 | 終止形 | 連体形 | 已然形 | 命令形 |
---|---|---|---|---|---|---|
まし | ましか (※ませ) |
〇 | まし | まし | ましか | 〇 |
※未然形「ましか」と「ませ」は作られた時代によって違うだけで、意味や使い方は全く同じです。
奈良時代には未然形は「ませ」・終止形「まし」・連体形「まし」しか元々なかったところ、平安時代から已然形「ましか」が出現して、未然形にも「ましか」が使われるようになりました。
「まし」の接続
「まし」の接続は、活用語の未然形です。
例:これに何を書かまし
「これに何を書こうかしら」
「書か」は「書く」という動詞の未然形です。
このように「まし」の直前には、必ず動詞の未然形があると覚えておいてください。
高校古文のテストに良く出る!「まし」の意味
次のポイントは助動詞「まし」の意味です。
「まし」の意味のなかでは、「反実仮想」と「ためらい」の2つがテストでよく出題されますので、それぞれを詳しく見ていきましょう。
反実仮想
助動詞「まし」の文法問題で1番よく出題されるのは、反実仮想への理解を問う問題です。
反実仮想とは事実に反することを仮定して、仮に想像することです。
「もし私が鳥ならば、空を飛ぶのがさぞ楽しいだろうに」といったように事実ではないことを想像するときに、助動詞「まし」が使われます。
▶反実仮想の用法
形は以下の4種類あります。
(ーせば / ーませば / ーましかば / 未然形+ば) +~まし
「もし~ならば、~だろうに」
このような形になったときに、「まし」が反実仮想の意味となると覚えてください。
「せ」「ませ」「ましか」のように、前の部分が未然形になっていることも見分けやすい特徴です。
▶反実仮想の意味
では、実際にどのように使われているのかを例を見ながら、反実仮想の意味について貝瀬tしていきます。
例文①:世中にたえてさくらのなかりせば 春の心はのどけからまし (古今和歌集・在原業平)
「もし、この世の中にまったく桜がないとするならば、(美しい桜の花がすぐに散ってしまうことに心が騒ぐこともなく、)春をめでる人の心はのどかだろうに」
例文①では、過去の助動詞「き」の未然形「せ」 + 接続助詞の「ば」、『反実仮想』の助動詞「まし」で「せばーまし」の形になっています。
この文が伝えたいことは、「実際には、この世には桜があるので、春の人々の心はのでかではない。」という主張です。
例文②:鏡に色・形あらましかば、うつらざらまし (徒然草)
「もし、鏡に色と形があったならば、(物の姿は)映らないだろうに」
例文②では、反実仮想の助動詞「まし」の未然形「ましか」 + 接続助詞の「ば」、反実仮想の助動詞「まし」で「ましかばーまし」の形になっています。
この文が伝えたいことは、「鏡には色や形があるので、物の姿は映るのだ」という主張です。
反実仮想は事実に反する想像なので、直訳したことを裏返すとその文の主張がわかります。
訳だけではなく、実際にはどうなっているのかをテストで聞かれることも多いので、しっかりと理解を深めておきましょう。
ためらい
もう1つのテストで良く出るパターンの意味は「ためらい」です。
これからしようとする行動をためらっている意を伝えたいときにも、助動詞「まし」を使います。
▶ためらいの用法
疑問を表す語(「何・いかに・や(係助詞)」など)とともに使われます。
疑問語( 何 / いかに / や ) + まし
訳:~しようかしら
疑問語があるかどうかが「ためらい」を見つけるポイントです。
▶ためらいの意味
「まし」は、ためらい(~かしら、~しようかしら)の意味となります。
では、具体的な例でみていきましょう。
例文:これに何を書かまし (枕草子)
「これに何を書こうかしら」
例文では、「何」の疑問語のあとに、四段「書く」+連体形「まし」がついているので、「ためらい」の意味で訳して、「書こうかしら」となっています。
演習問題|助動詞「まし」
以上、テストに良く出るポイントを中心に、助動詞「まし」の用法・意味を解説してきました。
では、実際に頻出問題パターンの演習問題を解いてみましょう。
演習問題Ⅰ
まず、助動詞「まし」の活用と接続についての演習問題を解いて練習しましょう。
現代語訳の文の意味になるように、( )内の助動詞や動詞を適切な形に活用させましょう。
【問題①】
げにかうおはせざら( まし )ば、いかに心細から( まし )
訳:本当に、こうして(源氏の君が)いらっしゃらなかったら、どれほど心細かったでしょう
【解答】
ましか、まし (反実仮想の形)
【問題②】
見る人もなき山里の桜花 ほかの散りなむ後ぞ( 咲く )まし
訳:見る人もいない山里の桜の花よ、ほかの桜が散った後に咲いたらいいのに
【解答】
咲か (「まし」の接続は未然形)
【問題③】
故入道の宮おはせ( まし )ば、かかる御賀など、われこそすすみ仕うまつら( まし )
訳:亡き入道の宮が生きていらっしゃったとしたら、このようなお祝いなど、私がすすんでしてさしあげただろうに
【解答】
ましか、ましか (「係助詞」こそがあるため已然形)
演習問題Ⅱ
次の演習問題は、助動詞「まし」の意味を見分ける演習問題です。
次の①~④の下線部について、反実仮想の意味で使われているものには「A」を、ためらいの意味で使われているものには「B」を選んで記入してください。
【問題①】
出でしままに、稲荷に詣でたらましかば、かからずやあらまし
【解答】
A 「ましかば~まし」の形の「反実仮想」
訳:出てすぐに稲荷神社に参詣していたなら、こんな不幸な目にあわなかっただろうに
【問題②】
心憂きものは世の中なりけり。いかにせまし
【解答】
B 「いかに」を上に伴っているため「ためらい」
訳:世の中はつらいものだなあ。どのようにしようかしら
【問題③】
わが背子と二人見ませばいくばくかこの降る雪のうれしからまし
【解答】
A 「ませば~まし」の形の「反実仮想」
訳:もし夫と二人で見たとしたら、どんなにこの降る雪がうれしいだろうに
【問題④】
わが身一つならば、安らならましを
【解答】
A 「未然形+ば~まし」の形の「反実仮想」
訳:もし自分一人であるとしたら、気楽だろうに
【高校古文演習マスター】反実仮想の助動詞「まし」|まとめ
以上、助動詞「まし」についてテストに良く出るポイントを詳しく解説してきました。
最後に、もう一度「まし」の意味の見分け方をまとめてみましょう。
【反実仮想を見分けるポイント】
反実仮想は4つの形になっている
①ーせば + ~まし
②ーませば + ~まし
③ーましかば + ~まし
④未然形+ば+ ~まし
【ためらいを見分けるポイント】
ためらいの「まし」の前には疑問語がつく
疑問語(何 / いかに / や ) + まし
想像の出来事を語っている反実仮想の「まし」の意味を正しく見分けられないと、現実に起きていることが何なのかを正しく判断できません。
この記事で紹介した見分け方をしっかりマスターして、テストに備えましょう!